東京高等裁判所 平成3年(ネ)2716号 判決 1994年1月27日
静岡県榛原郡金谷町金谷河原三四七番地の八
控訴人
カワサキ機工株式会社
右代表者代表取締役
川崎尚一
右訴訟代理人弁護士
竹内澄夫
同
市東譲吉
同
矢野千秋
同
前田哲男
同
松本昭幸
同
小岩井雅行
右輔佐人弁理士
堀明彦
静岡県小笠郡菊川町西方五八番地
被控訴人
落合刃物工業株式会社
右代表者代表取締役
落合錬作
右訴訟代理人弁護士
吉原省三
同
小松勉
同
松本操
同
三輪拓也
同
米原克彦
同
玉生靖人
同
本井文夫
同
植村公彦
主文
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金五一四四万円及び内金一〇一一万円に対する昭和六一年六月一三日から、内金一六九六万円に対する平成元年三月一〇日から、内金一一〇〇万円に対する平成二年九月一日から、内金一三三七万円に対する平成四年一二月七日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、金二億七八〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する昭和六一年六月一三日から、内金四二〇〇万円に対する平成元年三月一〇日から、内金一億二二〇〇万円に対する平成二年八月三一日から、内金八四〇〇万円に対する平成四年一二月七日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
との判決
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 控訴人は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。
名称 二人用動力茶葉摘採機
出願日 昭和五二年一二月六日
公告日 昭和五八年七月一二日
登録日 昭和五九年五月一一日
登録番号 実用新案登録第一五四三三八五号
2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「前方突出部6を形成した一側板1と他側板1'および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、該機筐の一側板1辺りに原動機2、フアン3を搭載し、上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、前記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、機筐両側には把手11、11'を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、二人用動力茶葉摘採機。」
3(一) 本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
(1) 前方突出部6を形成した一側板1と他側板1'および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、
(2) 該機筐の一側板1辺りに原動機2、フアン3を搭載し、
(3) 前記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、
(4) 底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、
(5) 上記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、
(6) 機筐両側には把手11、11'を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、
(7) 二人用動力茶葉摘採機。
(二) 本件考案の作用効果は、次のとおりである。
側板1の前部には、刈刃8が露見する切欠部13を形成しているため、作業者は、自然の作業姿勢のままで、側板の切欠部から刈刃を常に監視できるから、刈り込みの深浅及び復路時の畝頂辺の一様性が瞭然に目視できる。すなわち、刈刃と畝上面の適合具合がほぼ自然の姿勢のままで監視できることになり、その安全性、疲労度の軽減が向上し、しかも一様な芯葉を摘採できる。
4 被控訴人は、原判決別紙被告製品目録(以下「被告製品目録」という。)(一)ないし(八)記載(但し、同目録(一)ないし(八)の各第2図は、本判決添付の図面にそれぞれ改めたもの。)の二人用動力茶葉摘採機(以下、それぞれ「被控訴人製品(一)」ないし「被控訴人製品(八)」といい、これらを総称するときは、単に「被控訴人製品」という。)を次のとおり業として製造販売した。
(一) 昭和五九年一一月から同六〇年四月まで被控訴人製品(一)、(二)
(二) 昭和六〇年四月から同年一〇月まで被控訴人製品(三)
(三) 昭和六〇年一一月から同六二年一一月まで被控訴人製品(四)
(四) 昭和六二年一二月から平成二年八月まで被控訴人製品国、(六)
(五) 平成元年九月から同四年一二月六日まで被控訴人製品(七)、(八)
5 本件考案と被控訴人製品とを対比すると、以下述べるとおり、被控訴人製品はいずれも本件考案の構成要件をすべて充足しており、作用効果も本件考案と同一であるから、本件考案の技術的範囲に属する。
(一) 構成要件(1)について
本件考案の構成要件(1)中の「前方突出部」は、側板が刈刃に比して同程度以上前方に突出している部位のことである。
多くの従来型茶葉摘採機においては、作業者が自然な姿勢で摘採作業をする場合、側板により視界が遮られ、刈刃と畝上面の適合具合を監視できなかったのであり、かつ、視界を遮る側板の右部分が機能(茶葉寄せ機能、茶葉保護機能、刈刃保護機能)、収容能力、重量軽減、重量バランス等の技術的理由によって生じることも当業者間では常識であった。そして、この視界を遮る点を解決する、すなわち視界を確保するというのが本件考案の目的である。しかして、本件考案は、作業者が自然な姿勢で良好な茶葉の摘採作業を行うことができるように切欠部を設けているのであるから、作業者が自然な姿勢で摘採作業をする場合、側板が存在して視界を遮られ、そのために刈刃と畝上面の適合具合を監視できないならば、側板のその部分こそが前方突出部ということになる。したがって、前方突出部とは側板が刈刃より同程度以上前方に突出している部分をいうのである。換言すれば、本件考案は、側板に切欠部を形成して刈刃を露見させようとするものであるが、そのためには少なくとも側板が刈刃を覆っている、すなわち、側板が刈刃より同程度以上前方へ突出していることが前提となっているのであって、本件考案においては、その側板が刈刃より同程度以上突出している部位をとらえて、前方突出部と称しているのである。茶葉摘採機の横方向からみて側板が刈刃よりも同程度以上前方に突出している部分というべきを、単に「前方突出部」と記載すれば、簡明にその部材が刈刃を覆っていることを明らかにすることができるからである。
ところで、被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成1(一)ないし(三)には、一側板1に前方突出部が存在する旨の表現は用いられていないが、広幅状部分(又は等幅状部分)11は、側板の前方突出部(刈刃より前方に突出している部位)に切欠部を形成した残りの部分に他ならず、右一側板1には、前方突出部が形成されているというべきであるから、被控訴人製品はいずれも本件考案の構成要件(1)を充足する。
(二) 構成要件(2)について
被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成2は本件考案の構成要件(2)を充足する。
なお、本件考案においては、原動機及びファンが機筐の一側板の外側に垂直に搭載されるものに限定されていない。
(三) 構成要件(3)について
本件考案の構成要件(3)における「架設」は一般辞書に定義づけられている「かけわたす」の意で用いられている。すなわち、構成要件(3)には「上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し」と記載されており、摘採機の前方からみて、前方突出部6、6間に風胴7が「かけわたされていること」、すなわち前方突出部と風胴の位置関係をその要件としているものである。これは、この種の摘採機では、技術上当然のことを記載したものにすぎない。何となれば、前方突出部は側板の一部で構成されており(当然のことながら、それと同視できる部材で前方へ突出させた場合も含む。)、その側板間には、底板前端に沿って刈刃が設けられていて、それが刈り取った茶葉を後方へ吹き込む必要があり、吐出小管を設けた風胴も前方突出部間に「かけわたされている」必要があるからである。要は、刈り取った茶葉を吹き込むために、前方突出部から他の前方突出部に亘って風胴が配されていれば足りるのであって、その固定支持方法などを記さねばならない技術的理由など全くない。この構成要件(3)は、単に、その必要性を要件化しただけのものにすぎず、文言自体からも明らかなとおり、前方突出部へ固定するための支持方法などについては何ら触れていない。風胴の支持方法などは、当業者には公知技術の範囲で自明であるから、公知技術に従って、風胴を架設して支持すればよいだけのことであり、かつ、少なくともその公知技術の範囲の支持方法を特許請求の範囲に含めているからこそ、あえて支持方法を構成要件に記載せず、限定もしていないのである。このように、構成要件(3)の風胴の架設方法は、公知技術となっている方法を原則として含むのであり、側板自体で直接的に風胴を架設する方法のみならず、側板自体で直接的に風胴を架設しないで他の方法によって風胴を架設する方法も当然含まれるのである。
したがって、被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成3は本件考案の構成要件(3)を充足する。
(四) 構成要件(4)について
被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成1(四)は本件考案の構成要件(4)を充足する。
(五) 構成要件(5)について
被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成1(二)について、一側板(原動機側側板)に切欠部が形成されている旨記載されていないが、一側板1の前部には、広幅状部分(又は等幅状部分)11、その下端部分14及び前方辺9によって凹部が形成されており、右の形状は、一側板1の前方突出部に形成された切欠部に他ならない。
したがって、被控訴人製品の各構成1(二)はいずれも本件考案の構成要件(5)を充足する。
(六) 構成要件(6)について
被告製品目録(一)及び(二)記載の各構成4、同目録(三)ないし(八)記載の各構成5はいずれも本件考案の構成要件(6)を充足する。
(七) 構成要件(7)について
被控訴人製品はいずれも二人用動力茶葉摘採機であるから、本件考案の構成要件(7)を充足する。
6(一) 被控訴人は、本件実用新案権を侵害することを知り、又は過失によりこれを知らないで、次のとおり、被控訴人製品を製造販売し、総額金五五億六〇〇〇万円の売上げを得た。
<省略>
右売上額は、控訴人と被控訴人の売上げのシェアの比較に基づいて算出したものである。
ところで、財団法人静岡経済研究所発行の静岡県会社要覧(一九八七年度版ないし一九九〇年度版、一九九三年度版、甲第五三号証の一ないし五)に掲載されている被控訴人の売上額〔昭和五九年度三億七九三七万二〇〇〇円(但し、二ヵ月分)、昭和六〇年度二一億八七四一万三〇〇〇円、昭和六一年度二一億五七三一万二〇〇〇円、昭和六二年度二四億八四六万四〇〇〇円、昭和六三年度二六億六八二二万円、平成元年度二九億八六〇六万六〇〇〇円、平成二年度三一億九三七九万三〇〇〇円、平成三年度三三億四七八四万九〇〇〇円、平成四年度三三億四七八四万九〇〇〇円(推計額)〕を基に、左記算定式により、被控訴人製品の売上額を算定すると、昭和五九年度九四八四万三〇〇〇円、昭和六〇年度五億四六八五万三〇〇〇円、昭和六一年度五億三九三二万八〇〇〇円、昭和六二年度六億二一一万六〇〇〇円、昭和六三年度六億六七〇五万五〇〇〇円、平成元年度七億四六五一万六〇〇〇円、平成二年度七億九八四四万八〇〇〇円、平成三年度八億三六九六万二〇〇〇円、平成四年度(一二月六日まで)八億三六九六万二〇〇〇円、合計五六億六九〇八万三〇〇〇円となり、この点からいっても前記売上額は正当なものというべきである。
記
被控訴人製品売上額=被控訴人の売上総額×〔茶摘機の売上高に占める割合・八〇パーセント〕×〔茶摘機の可搬式の占める割合(金額比)・七〇パーセント〕×〔可搬式のうち被控訴人製品の占める割合(金額比)・四四パーセント〕
(二) 本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、売上額の五パーセントが相当である。
被控訴人の昭和五九年度から平成四年度までの売上純益率平均七・一パーセントからみても、右実施料率は妥当なものというべきである。
(三) したがって、控訴人が被控訴人の本件実用新案権の侵害により被った損害は二億七八〇〇万円(五五億六〇〇〇万円×五パーセント)である。
7 よって、控訴人は、被控訴人に対し、損害金二億七八〇〇万円及び内金三〇〇〇万円に対する昭和六一年六月一三日(訴状送達の翌日)から、内金四二〇〇万円に対する平成元年三月一〇日(同月九日付け準備書面送達の翌日)から、内金一億二二〇〇万円に対する平成二年八月三一日(同日付け準備書面送達の日)から、内金八四〇〇万円に対する平成四年一二月七日(本件実用新案権の存続期間満了の翌日)から各支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1は認める。
2 同2は認める。
3 同3(一)は認める。同3(二)は争う。
4 同4は認める(但し、被控訴人製品の製造販売期間は後記6に記載のとおりである。)。
5 同5のうち、被控訴人製品が本件考案の構成要件(4)、(6)及び(7)を充足することは認めるが、その余は否認する。
(一) 構成要件(1)について
本件考案にいう側板の「前方突出部」とは、本件明細書に記載されている、「従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出」しているという、その突出部のことに他ならない。
本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「前方突出部6を形成した一側板1と他側板1'および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し」、「底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に」と記載されており、「前方突出部」は機筐を構成した段階において存在しているのであり、刈刃を沿設する前から突出していることになる。さらに、考案の詳細な説明には、「この側板1、1'、底板4、上板5をもって前後を開口した機筐を構成する。6、6は側板の前方突出部で、この間にファンと接続する風胴7を架設する。8は底板4の前方縁に沿って設けた刈刃で、その先端は、前記側板1、1'の前方辺9とほぼ同一線上に位置する。」と記載されている。すなわち、刈刃の先端は、側板1、1'の前方辺9とほぼ同一線上に位置するのであり、側板の「前方突出部」はこの間に風胴7を架設するためにさらに突出しているのである。
そこで、この「前方突出部」は何から突出している部分かということであるが、本件明細書には、「従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し」と、機筐の前方に風胴を架設するために、機筐の前方において突出している旨記載されている。そして、機筐は、「一側板1と他側板1'および底板4と上板5」で前後を開口するように構成されているのであるから、一側板、他側板が底板及び上板と同じ幅であれば、これは突出していることにはならない。したがって、「前方突出部」とは、底板及び上板で囲まれる筐体部分から前方に張り出しているということに他ならない。そして、前方に張り出している目的は、本件考案の構成の一つである「前記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設」するためである。
ところで、被控訴人製品の他側板1'は、支持枠51の取付部分から前方に張り出し、突出しているが、一側板1は、上部は支持枠51の取付部分から前方に張り出しておらず、下部も底板4の取付部分から前方に張り出していない。すなわち、一側板1の上部は、支持枠51・51を取り付けるのに必要なだけの幅しかなく、下部は底板4を取り付けるのに必要なだけの幅しかない。したがって、突出部がないのである。
右のとおり、被控訴人製品においては、一側板1に本件考案にいう「前方突出部」なるものが存在しないから、本件考案の構成要件(1)を充足しない。
(二) 構成要件(2)について
本件考案においては、原動機及びファンが機筐の一側板の外側に垂直に搭載されるものに限定されているが、被控訴人製品においては、これらが水平に搭載されているから、本件考案の構成要件(2)を充足しない。
(三) 構成要件(3)について
被控訴人製品にはそもそも一側板に前方突出部が存在しないので、本件考案の構成要件(3)の「上記側板の前方突出部6、6には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設」するという構成も備えないし、また、一側板の11の部分と他側板の前方突出部との間に風胴を架設してもいない。
なお、明細書の記載では、「架設」とは「かけ渡して設置する」という意味に用いるのが通例であり、本件明細書においても、同様の意味で用いられている。
控訴人は、「架設」の方法に限定はないと主張しているが、実用新案登録請求の範囲の記載では、「前方突出部に架設する」となっているのであって、両側の前方突出部に設置する方法については限定はないけれども、両側の前方突出部に設置するものであることは明記されているのである。さらに被控訴人製品においては、風胴が一側板に取り付けられていないばかりでなく、一側板の前方上方に位置しているのであって、一側板の上方に位置していない。したがって、風胴は一側板と他側板の間に配されてもいないのである。
したがって、被控訴人製品は本件考案の構成要件(3)を充足しない。
(四) 構成要件(5)について
被控訴人製品においては、一側板1に本件考案にいう「前方突出部」なるものが存在しないから、本件考案にいう「切欠部」も存在しない。
構成要件(5)の刈刃が露見する切欠部とは、刈刃の後方までえぐれ、横方向から刈刃のほぼ全面を監視できるようになっている切欠部である。被控訴人製品にはそもそも切欠部はなく、ましてこのような切欠部は存在しないのである。
6(一) 同6については、被控訴人製品の販売期間及び売上額を次の限度で認め、その余は争う。
<省略>
(二) 本件については、平成三年七月一九日に原審裁判所において、被控訴人製品は本件考案の技術的範囲に属さないことを理由として、控訴人の請求を棄却する旨の判決が言い渡された。したがって、仮に被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被控訴人としては属さないと信じるにつき相当の理由があり、これを信じたことに過失はないものというべきである。
第三 証拠関係
証拠関係は、原・当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 請求の原因1(控訴人が本件実用新案権を有していたこと)、2(本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載)及び3(一)(本件考案の構成要件)の各事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案の作用効果は請求の原因3(二)のとおりであると認められる。
そして、請求の原因4のうち、被控訴人が業として、昭和五九年一一月から同六〇年四月まで被控訴人製品(一)、(二)を、昭和六〇年四月から同年八月まで同製品(三)を、昭和六〇年一一月から同六二年九月まで同製品(四)を、昭和六二年一二月から平成元年九月まで同製品(五)、(六)を、平成元年一〇月から同四年一二月六日まで同製品(七)、(八)をそれぞれ製造販売したことは当事者間に争いがない。しかし、控訴人の主張中、右各期間を越える分につき被控訴人製品が製造販売されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
二 そこで、被控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。
1 被控訴人製品が本件考案の構成要件(4)、(6)及び(7)を充足することは、当事者間に争いがない。
2 構成要件(1)及び(3)の充足性について
(一) 前記のとおり、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載において、前方突出部6は一側板1と他側板1'に形成されるものであり、前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7が架設されるものとして規定しているところ、右「前方突出部」及び「架設」の技術的意味ないし内容について当事者間に争いがあるので、まずこの点について検討する。
(1)<1> 前掲甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明には、「本考案は二人用茶葉摘採機の構造に関し、特に刈刃前方から送風する為に機筐前縁部に風胴を装着した構造のものにおいて、作業者がその歩行操作中に、体を無理な姿勢にすることなく刈刃のほぼ全面を監視することができるようにしたものである。」(同号証第一欄二八行ないし三三行)、「従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し、底板a前辺に沿って位置する刈刃eは横方向からは全く見えざるものであった。すなわち、把手を持った作業者が自然な体勢をした際の視線は矢印ロの位置であり、これでは刈刃eが見えない為、結局、矢印ハの視線になるまで作業姿勢を崩さざるを得なかった。この姿勢は第3図に示す様に、中腰で進行方向に後向きであり、しかも相当後倒しの姿勢であって、その上腕は機体を持ち上げるような、極めて危険、苦痛を強いられるものとなる。本考案は以上の重大な危険性に鑑み、少なくとも動力部を搭載する側の側板に刈刃が露見する切欠部を形成して、自然な姿勢のうちに、良好な摘採作業ができるようにしたものである。」(同第二欄九行ないし二五行)と記載されていることが認められる。
右記載及び甲第二号証の第2、第3図によれば、本件考案は、機筐を構成する側板が風胴を架設するために上部において前方に突出し、下方に向かって後方に傾斜しているため、底板前辺に沿って位置する刈刃を横方向からは見ることができない公知の茶葉摘採機において、この点を解決すべく、側板の前方辺下部に刈刃が露見するように切欠部を形成して改良した点に特徴があることが認められる。
<2> そこで、本件考案における「前方突出部」について検討するに、実用新案登録請求の範囲中の「上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し」との記載、本件明細書の考案の詳細な説明中の前記「本考案は二人用茶葉摘採機の構造に関し、特に刈刃前方から送風する為に機筐前縁部に風胴を装着した構造のものにおいて」、「機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し」との各記載、及び「8は底板4の前方縁に沿って設けた刈刃で、その先端は、前記側板1、1'の前方辺9とほぼ同一線上に位置する。」(甲第二号証第二欄三二行ないし三四行)、「10は、風胴から分岐した多数の吐出小管で、刈刃8付近へ指向させる。」(同三四行ないし三六行)との各記載、並びに本件考案が改良の対象としている公知の茶葉摘採機の側板、風胴、刈刃の位置関係によれば、本件考案の構成要件(1)、(3)における「前方突出部」は、側板(一側板1、他側板1')が風胴を架設するために、その上部において刈刃より前方に突出して形成された部位を称するものとして用いられているものと認めるのが相当である。
<3> 被控訴人は、本件明細書には「従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し」と、機筐の前方に風胴を架設するために、機筐の前方において突出している旨記載されていること、そして、機筐は、「一側板1と他側板1'および底板4と上板5」で前後を開口するように構成されており、一側板、他側板が底板及び上板と同じ幅であれば、これは突出していることにはならないことを理由として、本件考案における「前方突出部」とは、側板のうち、底板及び上板で囲まれる筐体部分から前方に張り出している部分である旨主張している。
しかし、右「従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し」との記載から、機筐をもって、側板の前方突出の基準としているものとは認め難く、本件考案は、刈刃前方から送風するために機筐前縁部に風胴を装着した構造に係るものであり、風胴を架設するために刈刃を横方向から見えなかった側板の前方辺下部に刈刃が露見する切欠部を形成したものであるから、風胴の装着位置、したがって側板の「前方突出部」の位置は刈刃を基準としているものと認めるのが相当であって、被控訴人の右主張は採用できない。
(2) 次に、本件考案における「架設」について検討する。
本件明細書の考案の詳細な説明中の「刈刃8で剪断された芯葉は風胴7からの圧風で機筐後方へ吹き飛ばされ、収容袋12へ次々と収納されてゆく」(甲第二号証第三欄八行ないし一〇行)との記載からも明らかなように、風胴は、そこから出される圧風によって、底板の前方縁に沿設された刈刃で剪断された芯葉を機筐の後方へ吹き飛ばすものであり、そのために機筐前縁部に装着されるものである。
ところで、成立に争いのない甲第四八号証、乙第二八号証によれば、「架設」は、「かけわたすこと」あるいは「かけ渡して設置すること」の意であることが認められるが、いずれも成立に争いのない甲第一二号証、第三七号証ないし第四一号証、乙第一一号証、第一七号証によれば、茶葉摘採機において、側板自体で直接的に風胴を支持するものと、右以外の態様によって間接的に風胴を支持するものとの双方が本件考案の出願前公知の技術であることが認められること、本件考案において、風胴が機筐前縁部に装着される前記理由に照らすと、要は風胴が側板間にかけ渡されて設置されていて、側板が何らかの形でその支持に関与していれば足りるのであって、風胴が側板に直接的に支持されていようと、間接的に支持されていようと、それは単に側板への設置態様の相違にすぎず、側板に設置されているという点では実質上技術的な差異があるとは認め難いこと、「架設」という用語自体からは、本件考案が、風胴の設置につき側板への直接的支持に限定しているものとは解し難く、他に本件明細書には、右のように解すべきことを裏付ける記載は見出し難いことを総合すると、本件考案における「架設」は、風胴が側板自体で直接的に支持されているものに限定されず、他の部材を介して側板に間接的に支持されているものをも含むものと解するのが相当である。
(二) そこで、被控訴人製品が本件考案の構成要件(1)及び(3)を充足するか否かについて検討する。
(1) 被控訴人製品はいずれも、一側板1と他側板1'及び底板4と上板5(前後二本の支持枠51、51及び透明板52によって構成されている。)とで前後を開口した機筐を構成していること、他側板1'には前方突出部6が形成されていることは当事者間に争いがない。
そして、当事者間に争いのない被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成1(一)、(二)及び3と、被控訴人製品(一)を撮影した写真であることに争いのない甲第四六号証の二、同製品(二)を撮影した写真であることに争いのない同号証の三、同製品(三)を撮影した写真であることに争いのない同号証の四、同製品(四)を撮影した写真であることに争いのない同号証の五、同製品(六)を撮影した写真であることに争いのない同号証の六、同製品(七)を撮影した写真であることに争いのない同号証の七によれば、一側板1の上部前方に形成されている広幅状部分(被控訴人製品(一)、(二)、(七)、(八))・等幅状部分(被控訴人製品(三)ないし(六))11は刈刃より前方に突出していること、被控訴人製品(一)において、多数の吐出小管10を設けた風胴7は、前後の支持枠51・51に固定して前方に突出させた腕杆53と他側板1'の前方突出部6とによって架設支持されているが、前部の支持枠51は、一側板1の広幅状部分11の上部に固着されており、風胴7を連結するファン3は連結部材によって広幅状部分11に接続されていること、被控訴人製品(二)ないし(八)において、風胴7は、前部の支持枠51より前方に臨ませたファン3の風出口31と他側板1'の前方突出部6とによって架設支持されているが、ファン3は一側板1の広幅状部分・等幅状部分11と連結部材によって接続されていることが認められる。
右認定事実によれば、被控訴人製品において、風胴7は、直接的には腕杆53あるいはファン3の風出口31と他側板の前方突出部6との間に架設支持されているが、被控訴人製品(一)においては、腕杆53が固定された支持枠51は一側板1の広幅状部分11に固着され、また風胴7を連結するファン3は連結部材によって広幅状部分11に接続されているのであるから、風胴7は、腕杆53及び支持枠51、並びにファン3を介して間接的に一側板1の広幅状部分11に支持されているものと認めるのが相当であり、被控訴人製品(二)ないし(八)においては、ファン3は一側板1の広幅状部分・等幅状部分11と連結部材によって接続されているのであるから、風胴7は、ファン3を介して間接的に一側板1の広幅状部分・等幅状部分11に支持されているものと認めるのが相当である。
以上によれば、被控訴人製品における一側板1の広幅状部分・等幅状部分11は、側板が風胴を架設するために、その上部において刈刃より前方に突出して形成された部位、すなわち本件考案における前方突出部に相当するものであり、また、被控訴人製品において、風胴7は、この前方突出部に相当する一側板1の広幅状部分・等幅状部分11と他側板1の前方突出部6との間に架設されているものと認めるのが相当である。
したがって、被控訴人製品はいずれも本件考案の構成要件(1)及び(3)を充足するものというべきである。
乙第二一号証及び原審証人秋山卓郎の証言中、右認定に反する部分は採用できない。
(2) 被控訴人は、本件考案における「前方突出部」は、側板のうち、底板及び上板で囲まれる筐体部分から前方に張り出している部分である旨の主張を前提として、被控訴人製品の一側板1は、上部が支持枠51の取付部分から前方に張り出しておらず、下部も底板4の取付部分から前方に張り出していないから、被控訴人製品の一側板1には本件考案にいう「前方突出部」なるものが存在せず、したがって、被控訴人製品は本件考案の構成要件(1)及び(3)を充足しない旨主張する。
しかし、本件考案における「前方突出部」に関する被控訴人の主張が採用できないことは前記(一)(1)<3>に述べたとおりであり、また、被控訴人製品の一側板1には本件考案にいう「前方突出部」に相当するものが存在することは右(二)に述べたとおりであって、被控訴人の右主張は採用できない。
また、被控訴人は、被控訴人製品において風胴は一側板に取り付けられていないばかりでなく、一側板の前方上方に位置していて、一側板の上方に位置していないから、風胴は一側板と他側板の間に配されていない旨主張する。
しかし、本件考案における「架設」は、風胴が側板自体で直接的に支持されているものに限定されないことは前記のとおりであり、また、本件考案の構成要件(3)は、風胴が一側板の上方に位置することを規定しているわけではないから、右主張は理由がない。
ちなみに、成立に争いのない甲第四三号証の一(静岡地方裁判所昭和六〇年(ヨ)第一三〇号実用新案権仮処分命令申立事件において提出された被控訴人会社技術部長松村鋼司作成の「考案経過説明書」と題する書面)には、両側板による風胴の設置態様が被控訴人製品(一)と同じである、被控訴人の製造に係る後記商品名「V8-ZA」の茶葉摘採機の構造につき、「前記両側板中の原動機側一側板は、パイプを取付けるために前方を若干突出状にし、他の一側板は、風胴を取付けるために前方を突出状にし、その両側板間には多数の吐出小管を設けた風胴を架設する。」ものである旨の記載があることが認められ、この記載によれば、被控訴人会社の技術担当者でさえ、被控訴人製品(一)において風胴が両側板に架設されていると認識していたものということができる。
3 構成要件(2)の充足性について
被控訴人製品が被告製品目録(一)ないし(八)記載の各構成2を有することは当事者間に争いがなく、右事実によれば、被控訴人製品はいずれも本件考案の構成要件(2)を充足するものというべきである。
被控訴人は、本件考案においては、原動機及びファンが機筐の一側板の外側に垂直に搭載されるものに限定されているが、被控訴人製品においては、これらが水平に搭載されているから、本件考案の構成要件(2)を充足しない旨主張し、原審証人秋山卓郎の証言中には右主張に沿う供述部分があるが、右構成要件は、「該機筐の一側板辺りに原動機2、ファン3を搭載し」と規定するものであって、原動機及びファンが機筐の一側板の外側に垂直に搭載されるものに限定していないから、右主張及び供述は採用できない。
4 構成要件(5)の充足性について
(一) 被告製品目録(一)ないし(八)の各構成1(二)、及び前掲甲第四六号証の二ないし七によれば、被控訴人製品(一)、(二)においては、一側板1は広幅状部分11を残し、その下辺部14に続く前方辺9は、横方向からみて、刈刃8の中央部上方付近より垂下して刈刃8の近くより斜め前方に向かってゆるやかに傾斜し、刈刃8の先端より若干前上方付近で垂下して終わっていて、一側板1の前部には、広幅状部分11の下辺部14と前方辺9によって凹部が形成されていること、被控訴人製品(三)ないし(八)においては、一側板1は等幅状部分・広幅状部分11を残し、その下辺部分・下端部分14に続く前方辺9は、横方向からみて、刈刃8の先端上方付近より斜め後方に傾斜し、その下端は刈刃8の後端とほぼ同一線上に位置していて、一側板1の前部には、等幅状部分・広幅状部分11の下辺部分・下端部分14と前方辺9によって逆L字状に凹部が形成されていること、被控訴人製品においては、横方向から見て右各凹部から刈刃8を監視することができることが認められる。
右認定事実によれば、被控訴人製品はいずれも、一側板1の前部に刈刃8が露見する切欠部を形成しているものと認めるのが相当であって、本件考案の構成要件(5)を充足するものというべきである。
(二) 被控訴人は、被控訴人製品においては、一側板1に本件考案にいう「前方突出部」なるものが存在しないから、本件考案にいう「切欠部」も存在しない旨主張する。
しかし、本件考案の構成要件(5)から明らかなように、本件考案において「切欠部」が形成されるのは、側板1の「前部」であって、「前方突出部」ではないから、被控訴人の右主張はその前提において失当である。
また、被控訴人は、構成要件(5)の刈刃が露見する切欠部とは、刈刃の後方までえぐれ、横方向から刈刃のほぼ全面を監視できるようになっているものであるところ、被控訴人製品にはこのような切欠部は存在しない旨主張する。
被控訴人製品(一)、(二)においては、前記のとおり、前方辺9は、刈刃8の中央部上方付近より垂下して刈刃8の近くより斜め前方に向かってゆるやかに傾斜し、刈刃8の先端より若干前上方付近で垂下して終わる形状に形成されていて、切欠部が刈刃の後方までえぐるようには形成されていないが、構成要件(5)は、「刈刃8が露見する切欠部13」とのみ規定しているのであって、切欠部が刈刃の後方までえぐれていることまでを要件としているものではないから、被控訴人の右主張は採用できない。
(三) 前掲甲第四三号証の一、及び甲第四三号証の二(前記松村鋼司作成の報告書)には、被控訴人製品(三)(右報告書添付の図面と報告書作成の時期により(三)の製品と推認される。)は、特許出願公告昭和四五年第五四一九号公報(被控訴人出願の発明に係るもの。乙第七号証)に記載されている、刈刃が側板より前方に突出していて横方向から刈刃を監視できる構成の公知の摘採機を前提として改良したものであって、刈刃の全く見えなかった側板に切欠部を設けて刈刃を始めて露見させた構成とは基本的構成が異なる旨記載されている。また、甲第四四号証の一(弁理士小橋信淳他一名作成の鑑定書)には、被控訴人製品(三)の一側板1の前方辺9は、側面からみて、後方斜め下方に傾斜するように形成され、底板の前縁に沿設される刈刃8は、その刃体部分が側板1の横方向から見えるように、右刃体部分を側板1の前方辺9の下端から前方へ突出させて設けているのみであり、側板1の前部には、これに、刈刃8を露見させるための特別な「切欠」あるいは「のぞき穴」などの「切欠部」は何ら設けていないから、構成要件(5)を充足しない旨記載されている。更に、甲第四四号証の二(弁理士今誠作成の鑑定書)には、被控訴人製品(三)は、特許出願公告昭和四五年第五四一九号公報等に示されている、もともと刈刃が側板に邪魔されずに見えるような公知の摘採機における側板を採用したものであるから、本件考案にいう「切欠部」は備えられていない旨記載されている。
しかし、被控訴人製品(一)の製造販売以前に被控訴人において製造販売したV8-ZA摘採機を撮影した写真であることに争いのない甲第四六号証の一及び成立に争いのない甲第四九号証の一によれば、右V8-ZA摘採機においては、原動機及びファンを搭載した一側板は、横方向から見て、刈刃を覆っていて刈刃を見ることができないものであり、その点において前記2項(一)(1)<1>に認定した本件考案が改良の対象とした茶葉摘採機と同種のものに属することが認められること、成立に争いのない甲第四九号証の二ないし四(被控訴人製品(一)、(二)のカタログ)には「見やすい刈取部」、「エンジン側作業者の刈取部が抜群に見やすくなりました。」と記載されていること、成立に争いのない甲第五二号証(被控訴人の製造に係るV8-NeWZ(D)のカタログ)には「枠なしカット」と記載されていること、並びに前掲甲第四六号証の二ないし七によれば、被控訴人製品は、横方向から刈刃をみることができない側板を有するV8-ZA摘採機を前提として、これを改良すべく側板の前部に切欠部を形成したものと認めるのが相当であって、前記甲各号証の記載内容は採用できない。
5 以上によれば、被控訴人製品はいずれも本件考案の構成要件をすべて充足するものというべきである。
三 右のとおりであって、被控訴人が被控訴人製品を製造販売した行為は本件実用新案権を侵害するものというべく、被控訴人は、右侵害行為について過失があったものと推定されるところ、この推定を覆すに足りる証拠はない。
被控訴人は、原審裁判所において、被控訴人製品は本件考案の技術的範囲に属さないことを理由として、控訴人の請求を棄却する旨の判決が言い渡されたのであるから、被控訴人において、被控訴人製品は本件考案の技術的範囲に属さないと信じるにつき相当の理由があったものというべきである旨主張するが、右判決の言渡前はもとより、言渡後においても、いまだ事実審として訴訟が係属している段階にあるのであるから、右判決の言渡しがあったことをもって直ちに、被控訴人において、被控訴人製品は本件考案の技術的範囲に属さないと信じるにつき相当の理由があったものとすることはできず、被控訴人の右主張は理由がない。
したがって、被控訴人は、控訴人に対し、右侵害行為により控訴人の被った損害を賠償すべき義務がある。そこで、その損害額について検討する。
1(一) 被控訴人製品の売上額は、次の限度(被控訴人の自認している売上額。但し、被控訴人製品(一)、(二)、(四)については、被控訴人の自認額を当事者間に争いのない販売期間により按分した額)においては当事者間に争いがない。
<省略>
〔注 被控訴人製品(一)については、被控訴人が昭和五九年一〇月から同六〇年四月までの売上額として自認する一億一七三二万円を右表の販売期間分に按分した額。同製品(二)については、被控訴人が昭和五九年一〇月から同六〇年四月までの売上額として自認する一億二七八六万円を右表の販売期間分に按分した額。同製品(四)については、被控訴人が昭和六〇年一〇月から同六二年九月までの売上額として自認する五億六八一五万円を右表の販売期間分に按分した額。〕
(二) 控訴人は、控訴人と被控訴人の売上げのシェアの比較に基づいて算出したものであるとして、被控訴人製品の売上額は請求の原因6項のとおりである旨主張しているが、本件全証拠によるも、右(一)の被控訴人製品の製造販売期間における、控訴人と被控訴人の売上げのシェア、控訴人の茶葉摘採機販売台数、被控訴人製品の卸売価格が明らかではないから、右主張に係る売上額を肯認することはできない。
また、成立に争いのない甲第五三号証の一ないし五によれば、昭和五九年一一月から平成四年一二月までの被控訴人の売上額は請求の原因6項に記載のとおりであること(但し、平成四年度分は平成三年度分を基にした推計額)、被控訴人において取り扱う営業品目のうち茶摘機の売上高に占める割合は八〇パーセントであることが認められる。しかし、被控訴人の製造販売に係る茶摘機のうち可搬式のものが占める割合(金額比)及び可搬式のもののうち被控訴人製品の占める割合(金額比)が控訴人主張のとおりであることを認めるに足りる的確な証拠はなく(成立に争いのない甲第五四号証は、前記一項の被控訴人製品の製造販売期間における、可搬式のもののうち被控訴人製品の占める割合を認定するには不十分である。)、また、右各割合を算出・推認し得る資料もない。したがって、甲第五三号証の一ないし五に掲載されている被控訴人の売上額を基に、請求の原因6項記載の算定式を適用して算定された被控訴人製品の売上額も採用できない。
他に、被控訴人が前記(一)の売上額を越える売上げを得たことを認めるに足りる証拠はない。
2 そこで、本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額について検討する。
本件考案は、従来公知の茶葉摘採機の一部分である一側板の前部に切欠部を形成した改良考案であり、刈刃自体の摘採性能向上とは直接に関わりがないこと、本件考案の内容からいって、その開発に格別の費用を要したものとは考えられず、またその立証もないこと、被控訴人製品(一)以前に製造販売していたV8-ZA摘採機に比較して、被控訴人製品は、側板に切欠部を形成するという本件考案の特徴を取り入れたことによって価格的な上昇がもたらされたとか、あるいはそれによって被控訴人が特に利益を得たことを窺わせる証拠はないこと、その他弁論の全趣旨を総合し、かつ当裁判所に明らかな「国有特許権実施契約書及び実施料算定方法」(昭和四七年二月九日特総第八八号特許庁長官通牒)をも参酌すると、本件考案の実施に対して通常受けるべき金銭の額は控え目に見積り売上額の二パーセントと認めるのが相当である。
控訴人は、本件考案の実施料率は五パーセントが相当である旨主張し、甲第五六ないし第六一号証を援用するが、右甲各号証の記載・撮影内容をもって右主張を肯認することは到底できない。
他に右主張を肯認すべき証拠はない。
なお、前掲甲第五三号証の一ないし三によれば、被控訴人の昭和五九年一一月から平成三年一〇月までの売上純益率は平均約六・八パーセントであることが認められ、被控訴人製品の売上純益率も右とほぼ同様のものと推認されるが、この数値をもって、控訴人主張の実施料率が相当であるとすることはできない。
3 右1、2によれば、控訴人の実施料相当損害額(売上額×二パーセント)は次のとおりとなる。
<省略>
四 以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は、被控訴人に対し、五一四四万円及び内金一〇一一万円〔被控訴人製品(一)、(二)、(三)の各実施料相当損害額と、被控訴人製品(四)の実施料相当損害額のうち昭和六〇年一一月から同六一年五月(訴状送達の日の前月)までの分を按分により求めた額(三三一万円)の合計額〕に対する昭和六一年六月一三日(訴状送達の翌日)から、内金一六九六万円〔被控訴人製品(四)の実施料相当損害額の残額(七五七万円)、同製品(五)の実施料相当損害額のうち昭和六二年一二月から平成元年二月(平成三年三月九日付け準備書面送達の日の前月)までの分を按分により求めた額(三一〇万円)、同製品(六)のうち昭和六二年一二月から平成元年二月までの分を按分により求めた額(六二九万円)の合計額〕に対する平成元年三月一〇日(右準備書面送達の翌日)から、内金一一〇〇万円〔被控訴人製品(五)の実施料相当損害額の残額(一四五万円)、同製品(六)の実施料相当損害額の残額(二九三万円)、同製品(七)の実施料相当損害額(販売期間が平成元年一〇月から同二年八月までの分)、同製品内の実施料相当損害額(同右)の合計額〕に対する平成二年九月一日(同年八月三一日付け準備書面送達の翌日)から、内金一三三七万円〔被控訴人製品(七)、(八)の実施料相当損害額(販売期間が平成二年九月から同四年一二月六日までの分)〕に対する平成四年一二月七日(本件実用新案権の存続期間が終了した日の翌日)から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきである。
よって、本訴請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 田中信義)
別紙
被告製品目録(一)第2図差替分
<省略>
被告製品目録(二)ダイヤフラムタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(二)フロートタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(三)ダイヤフラムタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(三)フロートタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(四)ダイヤフラムタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(四)フロートタイプ第2図差替分
<省略>
被告製品目録(五)第2図差替分
<省略>
被告製品目録(六)第2図差替分
<省略>
被告製品目録(七)第2図差替分
<省略>
被告製品目録(八)第2図差替分
<省略>